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2007.09.01理事長メッセージ

理事長からのなずなメッセージ#23 新渡戸稲造の武士道と人間教育

理事長・校長 古賀正一

当学園の教育方針は、建学の精神の上に立つ【確かな学力と進学、真の人間教育、第三教育の達人】の3本柱である。

真の人間教育は、知徳体のバランスの取れた人づくりにある。青少年時代に人間としての基礎をしっかり身につけさせることこそ、本学園教育の土台である。

わが国は学問、スポーツ、芸術にも『道』として人間の基本姿勢が重視されてきた。知識・技能・技術の前に、礼儀と作法、学び方がしっかりと盛り込まれている。このよい気風が戦後の民主主義のなかで軽視されてきた。
自由を強調しすぎ規律と責任が無視され、権利を主張するあまり義務について軽んじられる残念な風潮がある。物質面だけでなく精神面で豊かになるには、過去に学ぶことが多々ある。大人は子供の鑑、世界に貢献し尊敬される日本になるには、まず大人が模範にならねばならぬ時代である。

さて、04年11月から新紙幣が発行され、5,000円札のシンボルが新渡戸稲造から樋口一葉にかわった。しかし今こそ新渡戸稲造先生(1862-1933)の国際性、教育思想、武士道精神をしっかり学ばねばならない。

小職が初めて先生を知るのは、大学時代 矢内原忠雄著『余の尊敬する人物』(岩波新書)である。『武士道』(岩波文庫)他を再読、新渡戸先生の思想、教育精神、業績は、劣化した日本人の精神構造の再生、若者の人間教育として不可欠であり、教育の王道と確信した。
新渡戸稲造著『BUSHIDO;The soul of Japan (武士道;日本の魂)』が、米国で出版されたのは1899年(明治32年)、時の米国大統領にも感銘を与えたという。翌年邦訳、更に独、仏、露、中国など多くの言語に翻訳され、世界的反響を呼び、今も世界各国の人に読みつがれている。
『武士道』の序文で、先生はあるベルギーの法学者から、宗教教育なくして何故日本は道徳教育ができるかの質問に、即答できなかったと述べておられる。その後の思考から、自分の善悪の観念を作っているものは武士道である、武士道精神こそ、桜の花のように日本人固有のものであると説かれている。

『武士道』各章にのべられている徳目は、まさに今こそ人間教育に必要な徳目でばかりである。武士道は、仏教、神道、儒教が基であり、朱子学や陽明学にも影響を与えている。武士道の徳目は、

義(Justice)~正しい道理、正義、不正を憎む

勇(Courage)~勇気、正しいことを行う、忍耐、平静さ

仁(Benevolence)~愛、寛容、やさしさ、思いやり

礼(Politeness)~礼儀、他人に対する思いやりの表現、作法

誠(Sincerity)~誠意、正直、真実

名誉(Honor)~最高の善、恥を知り恥を行わぬ

克己(Self control)~己に克つ、冷静

などである。

新渡戸先生ほど日本人の魂を理解し、敬虔なクリスチャンであり、個人の尊厳、人格、平和を大切にした方は少ない。札幌農学校、遠友夜学校、一高校長、東京女子大学長など教育者であるとともに、技師であり、国際連盟の事務局次長の要職を7年にわたり勤められた。若い頃『われ太平洋の橋たらん』との情熱を持たれた偉大な日本人である。

新渡戸語録には、「【知ること】だけでは十分でない、【実行】が大切である。しかし最も大切なことは【あなたがあなたとして存在することである】」とある。

当学園は日常の授業、クラブ活動、ホームルームでは勿論のこと、行事、寮での集団生活、毎日の生活、日頃の挨拶、清掃、規則やマナーを守ることなどにより、真の人間教育を実践している。更に充実させたい。

ご家庭でもしっかりとした【しつけ】、人間としてのあり方を日頃から教えていただきたい。生徒諸君がたくましく、思いやりのある立派なリーダーとして国際社会、地域社会で活躍するためには、武士道の徳目を中心に、日常の小さなよいことを積み重ねることである。

それにはまず親や教師を含む大人が範を示す事こそが、次代の人間をつくると考える昨今である。