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2020.12.01理事長メッセージ

理事長からのなずなメッセージ#183 ウイーク・タイズ(ゆるやかな絆)の大切さ

2020 Career Seminar2020.12.01
市川学園理事長・学園長 古賀正一

早いもので師走、今年はコロナに始まりコロナで終わる1年になりました。一人一人が、自分のこととして感染防止の基本を守り、新しい生活に順応すべく努力してきたと思いますが、感染縮小いまだしです。

学園は感染防止に最大限努力し、生徒は感染防止の基本を守りつつ、授業、可能な行事、縮小した行事、部活と大会、リモートでの各種外部イベントなどに積極的に参加し活動しています。高校3年生は、コロナ禍の中、学校推薦型選抜、総合型選抜なども始まり、更にはじめての大学入学共通テスト、一般選抜(2次選抜)にむけ日々最後の努力を傾け、顔つきもしまってきました。

さて毎年『キャリアセミナー』として、同窓会OB・OGの有志(サポーター)が、大学生の後輩に対し、卒業後の進路、就職、仕事について、業種別に分かれて、少人数グループで対話しアドバイスをする半日セミナーを開いてくれています。
今年は11月14日(土)にオンライン会議システムRemoを使用し、遠隔実施され、北海道から九州まで多くの大学生が参加し、サポーターも別々の場所から、対話しアドバイスをする有益な半日でした。ほとんどの参加者が初対面でしたが、自己紹介後すぐに打ち解け、個人的希望、目標、迷いや悩みなどを率直に相談し、サポーターが親身に本音でアドバイスする姿は感動的でした。
製造業、卸・小売、金融、レジャー、コンサルタント、公務員、起業、士業、その他一般の9つのオンラインのテーブル(6人定員)に分かれ参加し、かつ40分毎に3つの異なるテーブルを学生が回る方式でした。事前準備の甲斐があり、極めてスムースな運営でした。オンライン故に喋りやすいこともあり、遠隔地からの参加が容易になり、リアルにないメリットも多々ありました。

就職や大学院進学は悩み迷うことが多く、誰しも思い出があります。最初の希望通りの順調な場合も、希望通りでない不満な場合もあります。学園卒業生が各々自分のやりたいこと、希望に合った職場・職業に出逢うことを念願しています。
しかし必ずしも希望に合わなかった場合でも、仕事に打ち込んでみるとその道で力を発揮することが多いのです。人生100年時代、人生1回きり、長い目で自分の真のやりがいを探してほしい。二毛作三毛作のごとく、複数の職業・専門を経験することも可能であり有意義です。
今年は就職するにも大学院に行くにもコロナ禍で、苦労が多いと思いますが、逆境や経済不況の折こそ立派な人材が育つといわれています。事実立派なリーダーの多くは、何らかの逆境を体験しています。人間は仕事を通じて成長するので、仕事が好きなこと、やりがい、生きがいに通じることが一番ですが、一方苦手であっても続けているうちに天職になる場合もあるでしょう。結局は努力と熱意と誠意です。

長い社会生活で大切なのは、人間関係、人とのつながりです。家族や親しい友人、職場での上司・先輩・同僚・後輩との人間関係は重要です。
職場での信頼関係、協力関係、明るい職場環境は、日々の仕事の充実に直結します。人間関係が悪いと好きな仕事でも苦痛になります。このような強い結びつき(ストロング・タイズ)は大切だが、一方それだけでなく、他部門の人、職場外の人、滅多に会わない友人や同窓生、研究や趣味の活動での友人など、年に数回しか会わないが自分と違った世界に生きる人との交流も大切です。自分の知らない知識や刺激、自分と違った視点でのアドバイスをもらえます。これをウイーク・タイズ(ゆるやかな絆)といいます。

ウイーク・タイズという言葉は、東大教授玄田有史氏の希望学の本(注)ではじめて知りました。米国の社会学者マーク・グラノヴェッターが提唱した「The strength of weak ties」という共同体における情報伝搬に関する研究が原点です。
個人が求職や転職や起業するために適切な情報をくれ、助言をしてくれるのは、自分とは異なる情報を持つゆるやかなつながり(絆)の人だということです。求職・転職・起業に限らず、新しいことを始まるとき、新しいスキルや専門の知恵を借りたいときなど、自分の職場以外の人間とのネットワークを持つことは貴重です。このような人間関係は無形の大切な資産です。

学校の現場でも、同じ教科だけでなく違った教科の先生、他校の先生、大学教授、研究会、学会、他の職業の人などとのネットワークを、ウイーク・タイズとして積極的に開拓することは、仕事の面でも、人生を豊かにする上でも重要なことです。但し信頼できる相手かは十分に見極める必要はあります。

同窓会のネットワークはまさにウイーク・タイズの好事例であり、会員各自が同窓のよしみで互いに交流し、無形の資産として更に充実してもらいたいと願っています。
お陰様で学園の同窓会の活動が極めて活発であり、学園を支える大きな柱になっており、有難いことです。

(注)『希望のつくり方』玄田有史著(岩波新書)  『希望学』玄田有史編著(中公新書ラクレ)