2022.09.30理事長メッセージ
理事長からのなずなメッセージ#205 ネット時代こそ暖かい対面対話を
2022.10.1
市川学園理事長・学園長 古賀正一
2学期は生徒が楽しみにする行事が目白押しです。今日から始まるなずな祭は、今年も一般公開はせず、生徒中心の実施となりましたが、新たに保護者の皆様には参加していただいています。更に高校球技大会、中2京都宿泊研修と続き、11月には高2沖縄修学旅行、中3の広島、長崎、北陸3方面の国内修学旅行と続きます。旅行では事前の健康観察・健康管理、旅行中の感染防止の基本対策の徹底は勿論重要です。最近の特徴ですが生徒が行事を自主的に計画、協働し実施する比重が高まり、事前学習、事後学習を通じ、自分で学ぶ第三教育の実践が高度化しています。
9月のトピックスの一つとして5回目の参加のWSC(ワールドスカラーズカップ、英語で教養を競う国際大会)の世界大会(地域)がタイのバンコックで行われ18ヶ国1200名が参加しました。本校よりジュニアチーム(中2・中3)、シニアチーム(中3・高1・高2)計26名が参加し、全チームが米国イエール大学での最終世界大会への出場権を得たのは快挙でした。生徒はテストや討議だけでなく、イベントにも積極的に参加し他国の生徒と大いに交流し、かけがえのない無形の宝を得たと思います。
今年は同窓会設立80周年の年です。すでに約4万人の卒業生を輩出(女子も2000名以上)しています。残念ながら、同窓会80周年の対面行事である式典、総会、祝賀会は中止となりましたが、過去の歴史を知るための「80周年冊子・・10年間のあゆみ」の発行、本年の活動・同窓生の近況を記した「同窓会誌なずな24号」の発行、「未来に向けての企画」(学園創立100周年に向けてを検討中)が計画されています。同窓会は、1942年旧制市川中学校第1回生の卒業と同時に設立され、現在の後藤忠治会長(高校12回)まで80年間絶え間なく引き継がれ活動してきました。歴代の会長、役員、幹事、会員の皆様、事務局に心より感謝いたします。学園の真の価値は、良き伝統と卒業生の各分野での活躍と社会貢献であり、これはまさに学園の誇りであります。
さて最近思うことは、コロナ禍の影響とネット社会の急速な発展で、リアルでの暖かみのある対話が少なくなっていることです。メールを一本打ったらそれで終わりでなく、重要なことは更に対面で確認しておくことが、思わぬ事故を起こさぬためにも、大きな損失を回避するためにも重要です。最近の痛ましい幼稚園園バスの園児取り残し事故や疎外感から来る社会の不幸な事件などを考えると、日本的な助け合いの伝統や対話の重要性を感じます。効率性や有効性のみを重視し、自分さえ良ければとする風潮は、日本人の特色や人間らしさを失わせていないか、憂慮しています。人間はミスをするものだという前提での冗長性を持たせた仕組みも必要であり、それが種々のリスクに対してもレジリエント(resilient 弾力性ある、立ち直りの早い)な、倒れにくい組織やシステムとなります。装置やシステムでの強固な支援は不可欠ですが、その上で人間同士の助け合い精神と共に、日頃からの活発な対話やコミュニケーションが大切でありましょう。
学園での毎日は、教職員室での全体朝礼で始まります。学校全体に関わることを、校長はじめ担当者から話し、その後各学年別朝礼で連絡事項を主任中心で話し合う重要なひとときです。更に朝のホームルーム(HR)、帰りのHRを行い、個別の質問や相談での生徒と教員との対話、各種の会議など、リアルの対話と連携を重視しています。また教職員同士、生徒同志、生徒と教職員の挨拶も大切にしています。保護者の皆様との交流・連絡には「なずなネット」が極めて有効ですが、必要により紙での連絡や、問題により個別の保護者と電話や対面での対話も大事にしています。
小職も毎日必ず朝礼に参加し、終了後に立ち話で交流したり、声をかけたり教員の元気な様子を確認しつつ、現場のにおいをかぐ努力をしています。小職の仕事もネット活用で極めて便利になりましたが、出来る限り教職員や生徒と対面での機会をとらえ、対話をするよう努めています。対話からアイデイアが生まれることも多いのです。確かに今は、自分のやるべきことだけであれば、人に会わなくても、在宅でも出来ますが、その上での対話と交流は、人間社会やあらゆる組織の活性化や安全性には不可欠でしょう。
ICTやAIの技術は限りなく進歩しています。シンギュラリティ(技術的特異点)として、2045年にはAIが人類の知能を上回ると云われています。しかし人間は一人一人違うかけがえない人格を持ち、知能だけでなく、心や人間性、意識を持っています。更にデータ中心主義やコンピュータネットワークの中に構築された3次元の仮想空間・メタバース ( Metaverse、超宇宙) は、益々効率と利便性を高めるでしょう。一方地球環境を守るためにも人間の幸福追求にも、一人一人の生き方や幸福観が問われます。生身の人間同士のリアルの対話と人間性が益々必要と思うこの頃です。
人間は自然の一部であり生かされていること、従って家庭でも学校でも地域でも職場でも、人間同士の暖かい対話や助け合いが益々重要になります。世界の平和や地球環境問題の解決も、結局は多様な考えを持つ国や人々の対面での対話と互いの信頼が基で、その仕組みづくりから始まることになるでしょう。
「人間は、社会をつくって生きている。社会とは、支え合う仕組みということである。」(司馬遼太郎:21世紀に生きる君たちへ)