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2019.02.01理事長メッセージ

理事長からのなずなメッセージ#161 知のウイングを広げよう…理文の学びのすすめ

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市川学園理事長・学園長 古賀正一

 1月・2月は、入学試験の季節です。高校3年生は、1月19日・20日のセンター試験が終わり、いよいよ2月の入試本番にむけ、第一希望の大学を目指して頑張っています。学園3階の第三教育センター自習室で勉強する生徒の顔つきが厳しく真剣になっています。また当学園に入学を希望する受験生は、1月20日の幕張メッセでの中学第一回の入試、1月17日の高校前期入試が終わったところです。

中学・高校入試も大学入試も合否は僅差です。受験生には、健康に留意し、努力は裏切らないことを信じて自分の力を出し切ること、最後まであきらめず全力を尽くしてほしいと念願しています。受験は、目指す目標である第一希望の志を曲げぬことが大切です。もし思い通りにいかなくとも長い人生にとっては、成長の糧であることを理解してほしいと思っています。

さて受験に関連して、理系・文系について考えてみたいと思います。

我が国では、明治以来あるいは旧制高校の時代から、個人の学歴や大学の学部学科などを、理系・文系と二分するのを常としています。社会に出ても、自分は文系だから物理・化学や数学は苦手とか、自分は理系故、政治・経済・経営のことには関心がないなどの発言がいまだにあります。今や食料・エネルギー・環境など地球規模の課題、人類初めての高齢化問題、AI・ビッグデータなどデジタル革命と法的整備、生命科学や再生医療などにおける倫理的課題など、未知の課題が山積しており、人間知の総力をあげて解決すべき時代です。理系(自然科学;理学・工学・医学・農学、薬学など)、文系(社会科学;法学・経済学・政治学・社会学など、人文科学;文学・哲学・歴史学・人文地理学・教育学・心理学・芸術学など)の枠を超え、文理連携、文理融合が求められています。

一方、昨今の高大接続システム改革の中、中等教育(中学・高校)、大学入試、大学教育も変わりつつあります。中等教育では学ぶべき知の領域がますます拡大する中(減ることはない)、知識・技能の習得を基盤に、それを活用して課題解決するための思考力・判断力・表現力の育成、主体性を持って多様な人々と協働する力の養成が不可欠です。その鍵になるのが能動的主体的学び即ちアクテイブ・ラーニング(AL)なのです。

ALを通じて、理系・文系の枠にとらわれず出来るだけ多くのことに興味を持ち、新しいことにチャレンジする意欲を持つことが重要です。また学業以外に、行事、部活、校外での活動やコンテストなど、何でもやってみよう精神が大切です。高校時代に自主的に何をやったか、活動履歴(ポートフォリオ)も、今後大学入試で重視されます。

当学園は建学の精神をもとに、教育の基本方針として、リベラルアーツ教育(広い教養)を掲げ、5つの力(学力・進学力、教養力、科学力、国際力、人間力)に注力しています。授業以外に、理系・文系の広い分野でチャレンジできるゼミ・特別授業、行事、部活、校外コンテストなどあり、積極的参加を奨励しています。好きなことを発見し、自分の将来の夢・目標を発掘してほしいのです。

学園には理文の枠を超えた広範・多様な知的活動のメニューが沢山用意されています。いくつかの例を挙げますと、土曜講座、グローバル講座、市川アカデメイア、リベラルアーツゼミ、学園OBによるキャリアセミナー、国際研修(米・英・カナダ・NZ)、エンパワーメントプログラム、トビタテ!留学JAPAN、ワールドスカラーズシップカップ(WSC)などです。

大学進学や入試のこともあり、高校2年からは、クラスを理系・文系に分けますが、カリキュラムとして理文双方の科目を高3までしっかり習得します。またセンター試験も、理系・文系共に5教科7科目で受ける生徒が大半です。

中学入試は国数理社の4教科、高校は英国数理社の5教科が基本です。その中で帰国生対象入試や英語を重視した特色入試など、新しい試みもしています。2020年度からはじまる大学入学共通テスト(思考力や表現力を求める記述式や、英語外部試験の導入など)に対しても、積極的に先行して対応準備しています。

センターテストや共通テストは、理文を含め学問の基礎力把握として必要なのであり、高校時代を除いては、このような基礎を学ぶ機会は、必要に迫られる時以外ないでしょう。希望する大学の入試が、科目数が少ないからといって、早期に特定科目以外を捨ててしまうのは得策ではありません。いわんや科目数が少ない理由で大学を選ぶなどは本末転倒です。裾野の広い教養の土台を備え、将来自分の専門分野を深く追求し、その周辺境界領域にもチャレンジできる『V字型の人財』の輩出がますます期待されるでしょう。

大学のアドミッションポリシーも変わり、入学試験で政治経済などの学科で、数学が必須であったり(早稲田政経)、文系学部でも統計学などの数学が重視されたりしています。また新しく文理連携の学部や文系理系を横串にする学部、例えばデータサイエンス学部やAIを中心に文理融合の研究センターも多数出来ています。また以前から東大の教養学部の後期課程では、まさに文理融合の学際科学科、文系の教養学科、理系の総合自然科学科が一つの学部で運営されています。その他最近各大学に設置されている国際教養学部、地域系学部などは理文融合学科です。また米国の私立リベラルアーツカレッジは、文理融合の大学の典型です。

未知の課題を解決するには、ますます技術革新のスピードが速い故に、理系も法律、経済、倫理、ビジネスモデル、MBA的素養が必要ですし、文系も物理・化学・生物の基礎、数学(統計学、確率、論理性)、データサイエンスなどの知識が不可欠になります。

社会に出たときには、あらためて未知の課題に対し学ぶ事が多く、そのときに高校・大学の基礎知識・学び方が自信となり、自分で更に深く探求することが出来ます。産業界でもその会社の主製品が半導体であれば、文系でも半導体理論の基礎の理解は必須であり、研究分野でも、経済や法律、社会性や倫理など文系の知が必要でしょう。

作家司馬遼太郎は、『21世紀に生きる君たちへ』で次のように述べています。

「21世紀にあっては、科学と技術がもっと発達するだろう。工科学・技術がこう水のように人間をのみこんでしまってはならない。川の水を正しく流すように、君たちのしっかりした自己が、科学と技術を支配し、よい方向に持っていってほしいのである。」

まさに司馬さんは、今のAI時代、生命科学の時代を予見し、何でもありのような人間の思い上がった態度、自然への恐れが薄くなることを戒めていたのです。理系・文系が協力、連携、融合し、人間は自然の中の一部であることを基本に、正しい課題解決に当たらねばならないと思う昨今です。