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2022.06.30理事長メッセージ

理事長からのなずなメッセージ#202 教育における対話(Dialogue)の重要性

22.7.1.
市川学園理事長・学園長 古賀正一

6月も油断なく感染防止対策をとりつつ、可能な限り授業・部活・行事、課外活動を平常に近い形に戻しています。学年単位での行事が多く、中1体育大会、中2体育大会、中3の鎌倉日帰り研修、高3・高2の学外芸術鑑賞会(東京宝塚劇場、雪組公演)、中1~高1の校内芸術鑑賞会(國枝記念国際ホール、東京佼成ウインド・オーケストラ、2日間)、高2 SSH課題研究構想発表会(動機、目的、背景)、帰国生保護者説明会(ZOOM)、高1生向け同窓生によるキャリアセミナー(業種別グループ対話、ZOOM)などが行われました。

さて新しい学習指導要領では、何を学ぶかだけでなく、どのように学ぶかを重視しています。これが主体的・対話的で深い学び即ちアクティブ・ラーニングの視点です。教育現場では、授業やゼミなどで種々の工夫がなされています。

対話は、「向かい合って話すこと、会話、対談」(広辞苑)であるが、課題解決、合意形成のためでもあります。人の話を良く聞く、全面否定しない、自分の意見を主体的に述べる、更にそこから建設的生産的な知や解決策を見出すことが重要です。実社会でも多様な異質な人同士の対話の相乗効果から、新しい発見・研究、新しい事業などが生まれる機会が多くあります。

対話教育での当学園の特色は古典・哲学対話セミナー『市川アカデメイア』です。2012年高校2年生の希望者に開講して以来2021年度で10周年を迎え、10周年記念論文集を発刊することになりました。この間の修了生 389名、自ら希望して参加した生徒の意欲、携わってきた教員の熱意、日本アスペン研究所の支援のお蔭であります。まさに継続こそ力です。

本セミナーは、東西の人文・社会科学の古典テキストを生徒が事前に熟読し、自分の考えをまとめます。教室では積極的な発言と他者との対話を通して理解を深め、多様な意見に啓発され切磋琢磨します。進行役や助言者の先生はいますが、主体は生徒自身です。生徒の新鮮な感覚、直感的本質理解、論理的思考、深い読みなど、知のストレッチといえます。テキストの著者は、プラトン、荘子、デカルト、ルソー、ドストエフスキー、オルテガ、M.ウェーバー、E.フロムなど何れも知の巨人です。アカデメイアの語源通り知の快楽を味わい、ソクラテスの言う『大事なことは、ただ生きることではなく、善く生きることであり、立派に、正しく生きることである。』を会得してほしいと思っています。深く考えつつ読み、他者の意見を傾聴受容し、自分の意見を積極的に述べ、更に一つの作品を選び自分の思索を論文に書くという4つの知力、即ち読み考え・聴き・話し・書くが統合された対話型教養セミナーです。

学園の教育目標は、品格あるリーダーとして国内外で活躍できる紳士淑女の育成です。建学の精神である自ら学び考え生涯学び続ける『第三教育』は、そのための基本です。リーダーには情熱、実行力と共にノーブレスオブリージュ(高貴なる者の責務)が必要です。また未知の課題解決には、真の教養に裏打ちされた洞察力と苦難の実体験を通して鍛えられる人間力が土台となります。教養力の涵養には、読書、特に歴史の中で選別されてきた古典が最適です。古典を熟読し考え悩むことを通して、本質を見抜く洞察力を高め、人生如何に生きるべきかを考えたい。

今回の10周年記念論文集は現役生の論文と共に、修了生第1期から第8期(大学生以上)までの『アカデメイアを振り返る!』の寄稿を掲載しました。いずれも思い出に残る濃密なセミナーであり、思考の基礎体力がついたこと、新たな学びの方法を収得したこと、視野や思考の幅を広げたこと、古典・哲学に開眼し興味を深くしたこと、他者の意見の受容の重要性を理解したことなどを述べており、修了生の血となり肉となっていることを知り非常に嬉しく思いました。更に一人の修了生は、大学内のサークルで「こども哲学」(マシュー・リップマン:こどものための哲学授業に由来)という哲学対話をはじめようとしており、この視点から市川アカデメイアの包容力を考察し、対話ゼミの理想型とし、自分の学びの原点であるとした論文をよせてくれ、感動しました。

奇しくも今年学園では新しい試みとして、このアカデメイアの対話の考えを中学1年生の国語授業で実践したいと、哲学対話(参加者が輪になって問いを出し合い一緒に考えを深めてゆくという対話の形式)の授業をスタートしました。基礎段階として、「対話の主張には論証が必要である」ことを教えるため、学園で教材化した問答ゲームを用いて、問いに対し何故ならという理由を必ずつける問答を生徒同士で行いました。その後、教科書ヘルマンヘッセの「少年の日の思い出」を読み、感想で多く出た疑問「なぜぼくは蝶をひとつひとつ指でつぶしてしまったのか」をテーマに哲学対話を行いました。事前に、よく考えること、相手の話をよく聴くことなど大切なルールを確認してから実施しました。これにより発言しやすい空間ができ、普段発言しない生徒からも意見が出たこと、理解出来ない箇所をあぶりでだすことが出来たこと、生徒が当たり前だと考え疑いもしなかった常識を捉え直せたことなど、非常に有意義な授業が行えたと担当教員が考察しています。

対話(Dialogue)こそが世界を平和にする